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RACE REPORT

2023.01.13

ENEOSスーパー耐久シリーズ2022 Powered by HANKOOK参戦レポート
~第7戦 鈴鹿~

ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankookの第7戦が11月26日~27日に鈴鹿サーキットで行われ、104号車HM-R ヒロマツデミオ2(吉田綜一郎/佐々木孝太/妹尾智充/吉田隆ノ介)は、ST-5クラス5位でシーズン最終戦を終えた。

2022シーズン集大成の一戦、積み重ねてきた努力が速さに

前回の第6戦・岡山大会では、順調な走りをみせるも、終盤に起きたミッショントラブルによりポイント圏外でレースを終える悔しい結果に終わったHM RACERS。それでも、ST-5クラスの逆転チャンピオンの可能性を残しており、有終の美を飾るべく、優勝を目標にして最終大会への準備を進めた。

今回も、急きょではあるが事前に鈴鹿サーキットでテストを行い、マシンの状態をチェック。この事前テストがレースウィークに大きな影響をもたらした。水曜日の特別スポーツ走行からクラッシュが相次ぎ赤旗中断で多くの時間を無駄にすることになった。この流れは木曜日の専有走行でも続き、午後からの走行枠2時間のうち1時間以上中断しセットアップする時間が大きく削がれることになったが、事前テストのデータから持ち込みセットを考え、そのセットを基本にドライバーのフィーリングで微調整し、メカニック達が短時間でマシンを仕上げた。

3月の開幕戦では、同じクラスのライバル勢に速さで太刀打ちできない部分があったが、ドライバー、エンジニア、そして経験を積んだ広島マツダのディーラーメカニックたちの努力により104号車の熟成が進み、この最終戦では土曜日の朝にST-5クラストップタイムを記録。幸先の良いスタートを切った。

この勢いで、午後の公式予選に突入。今回は全9クラスの参加が認められ、56台がエントリーしている影響もあってか、コース上でアクシデントが絶えず、午前のフリー走行で2度の赤旗中断があったほか、グループ2のAドライバー予選でも、セッション開始早々にストップ車両が発生し赤旗が出された。

混乱の多いセッションとなったが、104号車のAドライバーを務める吉田(綜)は、着実にタイムを更新していき、最後は2分31秒948をマーク。午前中のようにクラストップとはいかなかったが、それでもトップから0.7秒差の4番手につけた。

続くBドライバー予選では、佐々木がマシンに乗り込み、さらなるタイム更新を狙っていったが、ここではライバルも手強く、2分31秒488のベストタイムを記録するも、クラス5番手という結果となった。この結果、2人のタイムを合わせた総合結果でクラス4番手を獲得。優勝も狙える位置につけた。 その後、Cドライバー予選では妹尾が、Dドライバー予選では吉田(隆)がステアリングを握り、決勝に向けてマシンの最終確認を行なっていた。

波乱続きの5時間レース。一時は上位につけるも、後半にABSトラブル発生

青空が広がった日曜日の決勝レース。今回は5時間耐久のフォーマットで行われた。ST-5クラス4番手からスタートとなる104号車は、吉田(綜)がスタートスティントを担当し、10時49分にスタートが切られた。すると、1周目からST-Xクラスで接触が発生。早くもフルコースイエローが出された。

マシンの回収が終わって、レースが再開されたのだが、今度は別の車両がトラブルでストップしてしまい、開始30分を過ぎたところで2度目のFCYが出され、その後セーフティカー先導に切り替えられた。

104号車はスタートでポジションを落としてしまったが、このSC導入のタイミングで給油のみのピットストップを敢行。今回は5時間レースということで、こうした給油のみのピットストップも必要となるのだが、田頭、大崎がレースの状況に応じて臨機応援に戦略を調整して対応していった。これが功を奏し、スタートから1時間30分が経過した30周目には、一時クラストップに浮上した。

しかし、レースペースではライバルに競り勝つことはできず、そこから少しずつ後退。クラス5番手まで後退したのだが、吉田(綜)は粘り強く走り続けた。戦略を変更した関係上、気がつけばスタートから2時間30分近くを走破し、45周目にピットイン。フロントタイヤ交換と給油を行い、佐々木にドライバー交代した。S耐に参戦した当初はミスも少なくなかったピット作業だが、今では広島マツダのディーラーメカニックたちも経験を積み、迅速かつ確実に作業を完了。ピットでのロスタイムを最小限に抑えて、マシンを送り出した。

レース中盤に入っても、コース上での混乱は収まらず、何度もFCYが導入された。また同じクラスでチャンピオンを争うライバルにもトラブルが発生し、順位を大幅に落とすシーンが見られるなど、全く先が読めない展開となった。

そんな中、104号車を駆る佐々木は安定したペースで周回を重ね、クラス4番手を維持。ひとまず表彰台圏内を狙って走行を続けていたのだが、残り1時間15分を切ったところで、突然ABSが機能しなくなるトラブルに見舞われた。

鈴鹿サーキットの中でも難所のひとつと言われるデグナーカーブで、トラブルが発生し、コースオフを喫してしまったのだが、スポンジバリアへのクラッシュをギリギリのところで回避。大きなタイムロスとはなってしまったが、コースに復帰を果たし、そのままピットに戻った。トラブルの修復を行うには相当の時間がかかってしまうため、ABSが機能しない状態でレース続行を決断。妹尾にドライバーを交代してゴールを目指した。ブレーキの操作を誤れば、ブレーキロックしクラッシュの危険性もあったのだが、妹尾は慎重に周回を重ね5番手をキープ。最後は吉田(綜)が再びマシンに乗り込み、101周を走破して、ST-5クラス5位でチェッカーを受けた。

残念ながら、クラス王者には届かず、最終的にはランキング5位でシーズンを終えたHM RACERS。最終戦を含め、結果としては目標に届かなかったが、“集大成”となる1戦でドライバーやチームにミスはなく、最後まで攻めの姿勢を崩さないレース運びを見せた。

HM RACERS 松田哲也 チーム代表 コメント

「何とか最終戦は獲りたい一心で臨みましたが、悔しい結果となりました。チームとしてはミスもなかったし、作戦通りにレースを進められた。やっぱり、クルマは近づいたし、本当に惜しいところまでは来ていて、最終戦もとことん突き詰めました。チームに勝たせてあげたかったし、みんなの喜ぶ顔を見たかったのですが、勝つのは難しいし、思い描いた通りにはいかないですね。最後まで惜しい1年でした。でも、みんな最後までよくやってくれた。この活動は広島マツダのブランド向上、メカニックのスキルアップなど目的は様々ありますが、強豪チームと肩を並べ、シーズンを競い合えたことが良かったなと思う。結果的に年間チャンピオンも、レースでの優勝も叶わなかったが、メカニックたちには誇りを感じています」

ドライバーコメント

Aドライバー:吉田綜一郎

「本来は僕の最初のスティントを短めにして最終スティントを長く乗る予定だったのですがが、レースの状況を踏まえて、最初が長くなりました。『けっこう乗ったな』という感じです。ラストスティントはABSのトラブルが出て苦労しました。でも、その前段階から前を走るライバルとは差ができていた。レースのペースもそうですし、周りの燃費が予想以上に良かった印象でした。1年を振り返ると、優勝はできなかったもののチーム力でコンスタントに上位に立つことができ、最終戦までチャンピオン争いができたので、そこは良かったと思ってます」

Bドライバー:佐々木孝太

「最初のスティントでペースが上がらず、ライバルとの差がついてしまいました。結果的に最初のつまずきが影響した部分があったように思います。タイヤの内圧をアジャストしたことが効いたのか、僕が乗った時はペースもそこまで悪くなかったです。このまま行ければ良いところも狙えるかな…と思っていたのですが、突然ABSのトラブルが出た。デグナーのひとつ目を通過して、ふたつ目に向かうブレーキングの時はABSが効いてない状態、そのままコースアウトしました。スポンジバリアに当たったんですが、軽くタッチした程度で止まって良かったです。そこから騙し騙しドライバー2名が乗ってくれて、順位も落とさず走れました。ABSのトラブルがなければ順位はもう1つ上げられたのかなと思う。でも、クルマのポテンシャルをみんなで引き出せたし、集大成のレースという点ではやり切った感はあります」

Cドライバー:妹尾智充

「ABSにトラブルがある中での走行でしたが、以前からABSが付いていない他のカテゴリーの車両も乗っていたので、その経験を活かして走りました。ちょっとでも操作を誤るとブレーキがロックしてしまう危ない状況でしたが、その中でもペースは悪くなかったし、できる限りのことはやれたと思う。優勝できなかったことは悔しい、でも自分としては出し切れたというか、スッキリした気持ちで最終戦を終えられました。今年は積極的にマシンのセッティングもどんどん変えて、色々なことに挑戦できたし、マシンに乗る機会もたくさん与えていただきました。自分もチームも成長できた1年だったなと思います」

Dドライバー:吉田隆ノ介

「今年はドライバーとして参戦したり、メカニックとしてチームのサポートに回ったレースもありました。今まではドライバーを務めるばかりで、メカニックの経験がなかったのですが、メカニックの視点から見たレースというのは、ドライバーとは大きく違ったので、そこは勉強できたなと思いました。どうしても、自分の実力不足でドライバーとして参加しても決勝を走れないことがあったので、そこは悔しいですが、いろんな面で成長できた1年でした。この経験を来年以降も活かしていきたいです」

HM RACERS 中村岳 現場ディレクター コメント

「シーズンを振り返ると……勝ちたかったなという思いが強いです。2位や3位をどれだけ獲得しても、1位にならなければ皆さんの記憶には残らないです。やはり勝負ごとですから、勝たなきゃいけない。その熱意が他のチームと比べると少し足りなかったのかもしれません。ただ、みんなの努力のおかげで、マシンがすごく速くなったシーズンでもありました。マシンを速くするというのはドライバーの頑張りだけでは実現しない。そこには毎回応援に来てくれる広島マツダのメカニックたちの成長があり、その積み重ねがクルマを速くしてくれたんじゃないかと思います。スポットで来てくれる子たちも本当に成長してくれて、今では初参加の子の面倒もちゃんと見れるようになっている。その姿を後ろから見て…『この子たちが、これからの広島マツダを支えていくんだ』と、嬉しく思いました」

「研修という名目でみんな参加してくれていますが、そういう意味では本当に良い環境だと思う。極限の状態で緊張する中、ミスなくピット作業を済ませてクルマを送り出す…。端から見れば、ただタイヤを交換して、燃料を給油するという単純な作業に思えるかもしれませんが、その重責は本当に重い。“仕事を確実にこなす”のは、簡単なようで難しいことなんです。走行中にタイヤが外れるようなトラブルはHM RACERSで一度も起こらなかった。そこは誇らしく思ってます。S耐に参加したメカニックのみんなには、この経験を糧に自分の人生や会社人生にもっと厚みを持たせていって貰えたらと思います。『そういえば、レースの時はここが危なかったな』とか、他では出来ない経験をしているからこそ、その経験は絶対に活きると思う。僕個人の考えですが、会社でした経験は、その会社でしか活かせないと思っています。サーキットでの経験を糧に、しっかりと日々の整備業務を支えていってほしい」

HM RACERS、S耐参戦“第一章”が終了。パワーアップすべく充電期間へ

2019年から4シーズンにわたって参戦してきたHM RACERS。毎回、広島マツダに所属するディーラーメカニックをサーキットに派遣し、レースという極限の現場を経験することで、それぞれのスキルアップを図っていくことが狙いのひとつだった。そこ鍛え上げられたメカニックたちが評価され、今シーズンから本格的に活動が始まったMAZDA SPIRIT RACINGの現場メカニックも広島マツダのメカニックが担うこととなった。

そうすると、かなりの人数をサーキットに割くことになり、ディーラー店舗運営にも負担をかけてしまうことになる。また参戦車両も2019年から4シーズンに渡って使ってきたため、車両の入れ替えも検討しなければいけない時期に入っている。

これらの状況を加味して、2023シーズンはメカニックを派遣するという形でMAZDA SPIRIT RACINGとともに戦い、HM RACERSとしては第二章に向けての充電期間に入ることとなった。

「僕たちの理想は“ディーラー”と“メーカー”という枠組みを超えて、一緒になってマツダブランドを向上していくことです。それを最初は僕たちディーラーが先行して、スーパー耐久に挑戦していましたが、そこにMAZDA SPRIT RACINGとしてメーカーも参戦してくれるようになりました。様々な状況も加味しながら、ひとまず2023年はMSRのサポートに力を注いでいきたいと思っています」と、経緯について説明する広島マツダの松田会長。 ただ、S耐以外のカテゴリーを舞台にして、レース活動を展開していき、そこでのオリジナルパーツの開発は継続して進めていくと語った。

「僕たちは、マツダファンのためにある会社ですし、お客様の一番身近にいる会社でもあります。もっと、レースが好きな人やパーツが好きな人に、マツダ車を通じて良いものを提供できる機会を今後も作っていきたいです。S耐に関しては“充填期間”に入りますけど、チームの活動が終わるわけではありません。来年もパワーアップして、頑張っていきます!」