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RACE REPORT

2022.06.21

ENEOSスーパー耐久シリーズ2022 Powered by HANKOOK参戦レポート
~第2戦 富士~

ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankookの第2戦が6月3日~5日に富士スピードウェイで行われ、104号車HM-R ヒロマツデミオ2(吉田綜一郎/佐々木孝太/妹尾智充/大崎悠悟/吉田隆ノ介)は、ST-5クラス2位に入り、今季初の表彰台を獲得した。

4度目の24時間、万全の体制で富士スピードウェイ入り

今回の舞台となるのは、静岡県にある富士スピードウェイ。シリーズで最も過酷と言われる24時間耐久レースだ。 HM RACERSにとって、富士24時間は悔しい思い出ばかり。ドライバーとチームスタッフは「今年こそは」の想いでサーキット入りした。5月10日の公式練習でも積極的に走り込み、データ収集やマシンの細部を確認した。が、6月2日木曜日の専有走行ではテスト時のタイムに及ばず、最高速が10Km/h以上も遅い。更に、新たに追加したミッションオイルクーラーのポンプからオイルのにじみが発生するトラブルも発生していた。セットアップなのか、他に原因があるのか…チームは金曜日の予選に備え、タイムが上がらない原因の追及からスタートした。手始めに走行データの一部に異常な数値を見つけプログラムを修正、オイル漏れは協賛企業の協力により代替部品を入手し、決勝スタート前の早朝に交換して事なきを得た。予選終了後には本番に備えてミッションを新しいものに交換するなど、過去の失敗を糧にし、着実に準備を進めた。

迎えた6月3日(金)の公式予選。Aドライバー、Bドライバーがそれぞれ記録したベストタイムを合計したもので順位が決まり、翌日のスタート位置が決定する。

まずはAドライバー予選に吉田が出走。渾身のアタックを披露し、2分06秒190でST-5クラス8番手につけた。続くBドライバー予選では、佐々木がマシンに乗り込んだ。前週でニュルブルクリンク24時間レースに参戦し、ハードスケジュールで本レースに臨んだ佐々木だが、その影響を全く感じさせない走りで、2分05秒921をマークし、クラス6番手につけた。2人のタイムを合わせた合計が4分12秒111となり、ST-5クラス5番手からのスタートが決まった。

今季から104号車には、HM RACERSオリジナルパーツも採用されており、戦闘力がアップ。実際に過去の富士戦の予選タイムと比べて、確実に良いタイムを両者ともに叩き出したのだが、ライバルもまた手強かった。チームは手応えを感じつつも、どこか悔しさの残る予選となった。

スタートからトップ争いに加わるも、展開に恵まれず

6月4日(土)の決勝日。この日は曇り空でありながらも、雨が降ることはなく、ドライコンディションでレーススタートを迎えた。

長丁場のレースではあるが、序盤の流れ作りも大事な要素。まずは佐々木がマシンに乗り込み、スタートドライバーを務めた。1周目からライバルとの差が離れないように食らいつき、混戦のなかで前のマシンをパス。20分を経過したところで3番手に浮上した。その後も前を行く17号車マツダ・デミオ、4号車ホンダ・フィットを追いかけ果敢に攻めた。例年なら、序盤からアクシデントが多発し、セーフティカーやフルコースイエロー(FCY)が入るのだが、今年は波乱もなくレースが進行。佐々木は約1時間30分で走行を終えて43周目にピットインし、大崎にバトンを渡した。

この第2スティントで大崎は4号車を捉え、2時間30分を経過したところでクラス2番手に浮上。その後も順調に走行し、83周目を終えたところで吉田綜一郎に交代した。

その後も直接的なバトルはなかったものの、ピットストップのタイミングで順位が入れ替わるという緊迫した展開は続いた。104号車はミスなく周回を重ね、スタートから4時間30分が経過したところで一時クラストップに浮上。この後、ピットストップを行なった関係で2番手に下がるも、クラストップの車両と同一周回でレースを続け、逆転のチャンスを伺った。

開始から6時間30分を迎えようというところで、コースに出たオイルを処理するためにセーフティカーが発動。ここで104号車の風向きが少し変わってしまう。セーフティカーが入ったポジションの関係で、トップを走る17号車との差が大きく広がってしまったのだ。 レース再開後、何とか逆転を目指して追いかけるも、17号車のペースは速く、1周以上の差がつくこととなった。

24時間を戦うドライバーやメカニックのために。ケータリングチームも活躍!

スーパー耐久シリーズのなかで最も過酷と言われる24時間レース。ドライバーやメカニックは途中仮眠や休憩をとるものの、スタート前の準備からレース後の片付けまで含めると約40時間近い長丁場の戦いを強いられる形となる。そんなスタッフたちを影で支えたのが、HM RACERS専用のケータリングチームだ。チーム代表である広島マツダ:松田哲也会長の提案により、昨年中盤から導入されたキャンピングカー。そのキッチンでスタッフ専用の食事が作られる。この24時間レースでも、梶本奈々さん・瀬川ゆずさんが調理を担当。大型の炊飯器を用意するなど、これまでの経験をもとに調理器具もパワーアップした。

3時間耐久や5時間耐久の場合は昼食のみの用意で大丈夫なのだが、今回は24時間レースということで、ケータリングチームも朝・昼・晩の3食に加え気軽につまめる軽食も準備していた。メニューも事前に考え込まれ、うどんやカレーのみならず、おにぎりやサンドイッチ、ポテトフライやチキンナゲットなども登場。スタッフからの評判も非常によく、緊張の糸を張り詰めながらも食事の間だけは、皆リラックスした表情を見せていた。

「基本はスタッフ・関係者の分を含め30人分プラスアルファを作っていましたが、作っても作っても無くなっていくので大変でした。でも、みんなが『美味しい!』って言いながら食べてくれたので嬉しかった」と瀬川さん。ケータリングチームも休みなく調理を続けていたが、準備したメニューを喜んで食べるスタッフをみて安堵していた。 「1年前の24時間レースでケータリングが充実したチームを間近に見たのがきっかけで、『我々もやろう!』という会長の提案で始まりました。そこから試行錯誤を重ねてきたので、私たちにとっても今回の富士は集大成だったのかなと思います」。レースの裏で、調理場もまた達成感に包まれていた。

最後まで“攻めの姿勢”は崩さず、チーム全員の力で2位表彰台を獲得

6月5日(日)深夜3時にレース全体の中間となる12時間を迎えた富士24時間レース。104号車はクラス2番手をキープし、各ドライバーが交代しながらトップの車両を追いかけていた。

スタートから12時間20分を過ぎたところで他クラスの車両がトラブルのためコース脇でストップ。マシンを安全に回収するためセーフティカーが導入された。ここで104号車はレース中に義務付けられている10分間のメンテナンスタイムを行うことを決定。マシンをピットに呼び戻し、ガレージ内で作業を行なった。予定より少し時間はかかってしまったものの、12分03秒でマシンを送り出し、クラス2番手は死守。一方、トップを走る17号車は日曜日の早朝にメンテナンスタイムを実施したのだが、ここでも逆転はならず。気がつけば2周の差がついていた。

それでも、104号車はトラブルに見舞われることなく周回を重ねていき、日曜日の午前を迎えても順調な走りをみせていた。

引き続き2番手を走行していたが、ゴールが近づくにつれ後方から66号車マツダ・ロードスターが同一周回で追いかけてきていた。さらに、104号車は燃費計算をするのに欠かせないフューエルカウンターが故障してしまい、ラップタイムをもとに算出した計算のみで残燃料を割り出していたが余裕は全くない状況で、レース終盤は燃費走行を余儀なくされる事態となっていた。本来はここから大崎がアンカーを務める予定だったが、急きょ佐々木がにバトンタッチ。燃費計算で定評のある大崎がサポートに回った。ここで大崎は「燃料の余裕はないが、レーシングスピードで走行しても最後まで走れる」と判断。松田会長が開幕戦から強調していた「勝つために攻める」の姿勢を貫く決断を下した。

幸いにも残り1時間を切ったところでフルコースイエローが入り、このペースダウンで燃料消費を抑えることができた。それでも、最後は燃料が2リットル残っているかどうか…というギリギリの状況だったが最後の最後でレース展開に恵まれる。104号車は総合トップ車両の前でファイナルラップに突入。後続の66号車が先に24時間のチェッカーを受けたため、104号車は無事に1周を走り切れば2位が確定するという状況だった。

状況を読んだ佐々木は万全を期すため限界までペースダウン。全クラス最後尾でゴールラインを駆け抜け、チームにとって2021年の第1戦もてぎ大会以来の表彰台を手に入れる。このときマシンの残燃料は1リットルを切っていた。

思えば、初参戦の富士24時間レースでは、燃料の計算ミスが原因で最終ラップにガス欠でコース上に止まってしまうという、この上なく苦い経験をした。その悔しさを糧に、チーム・ドライバー・メカニックらが力を合わせて課題を乗り越え、ひと回りもふた回りも成長したレースを観客の前で展開した。

この結果は、昨年456号車odula Star5 Roadsterを監督として優勝に導きレース経験も豊富な、HM RACERSの足回りの協賛企業のFK-TEC代表のカルロス本田氏が24時間付きっきりでドライバー、メカニックをサポートしてくれたお陰でもある。

ドライバーコメント

Aドライバー:吉田綜一郎

「久々に表彰台に乗ることができたのが嬉しかったです。ドライバーとしてはノートラブルでクルマを壊すことなく走りきれたので、そこは本当に良かった。最初はもっとトラブルが起きるかと予想していたのですが、チームが進化している証拠なのかも。うまくいけば優勝も狙えたかもしれない…悔しさは当然ありますけど、嬉しさの方が大きいです」

Bドライバー:佐々木孝太

「僕たちHM-Rにとっては“鬼門”の24時間でしたが、松田会長から『完走を目指して守りながら走るのではなく、とにかくプッシュしていけ』と気持ちいい言葉をいただいたので、最初からクルマの持つポテンシャルの範囲で攻めていきました。ドライバーもミスなく走り切りましたし、ピットで小さなミスはあったけど、あれだけ鬼門だった富士24時間をノートラブルで走り切り2位を取れました。最後は本当に燃料がカツカツの状態で、後ろからものすごいペースで追い上げてきていた。だけど会長の言葉を思い出し、給油のみのピットインなどはやめて、スタッフの緻密な計算を信じて走りました。幸いFCYが出てくれたことで燃費的にも余裕ができ、その分プッシュすることができた。本当は大崎君に最後を走ってもらう予定でしたが、急きょ僕が乗って大崎君に燃費計算をしてもらいました。彼はドライバーとしてマシンに乗った回数は少なかったですが、チームへの貢献度は非常に高かったです。今回はみんなの成長を感じたし、プッシュしたことで得られた結果が2位だと思う。優勝を目指していたので悔しい気持ちはありますが、残りのレースで勝てるように、またみんなと力を合わせて頑張ります」

Cドライバー:妹尾智充

「今回2位ではありますが、棚ぼたで得たものではなく、ちゃんと自分たちの実力で獲れた順位かなと思います。しかもずっとドライコンディションの中で、チーム全体が頑張ってくれた。ちょっとしたミスなどはあった、それでもみんながペナルティを受けることなく走り切り、チーム力で勝ち取ったんだと思えるレースでした。良かったです。これで悪い流れみたいなものが断ち切れたと思うので、次は優勝しかないと思う。そこを目指してチームと一緒に頑張れたらと思います」

Dドライバー:大崎悠悟

「正直、悔しい部分はあります。ドライバーをしながらエンジニアもやって、最後は自分が乗らないという判断をしたので、そこはもちろん悔しいです。でも、チームに対して貢献するという意味ではできる限りの事ができたのかなと思う。次はドライバーとして、もっと強くなってこの舞台に帰ってきたいです」

Eドライバー:吉田隆ノ介

「今回はけっこう大事な場面で任されることが多かったですが、そこで自分の走りがしっかりできたのは良かったなと思う。富士24時間は僕自身3回目で慣れていたので、冷静に走れたのかなと思います。今回のレースでも色々な経験を積むことができたので、ドライバーとして、またひとつ成長できたのかなと思います」

ディーラーメカニック コメント

ボルボ・カー広島大州店 山中研人さん

「HM-Rのメカニックとして携わるのは初めてでした。プレッシャーだらけで途中ミスをして『やってしまったな…』と思った瞬間もありましたが、最終的にちゃんと完走できたので良かった。普段の整備作業と違って、大勢のメカニックで1台のマシンを見るので、一応分担はされているんですが担当者がいない時に『ここって、やっていいのかな?』と戸惑う場面もありました。僕はいつもボルボ車を扱っていて、デミオの整備もほとんどしたことがないのでそこも大変でした。キャリパーを交換する時なども、事前にどの工具を使った方が良いのか相談しながらやっていました。普段の業務でも、事前に色々なことを考えて作業にあたれば早くできるのでは…という気づきがありました」

海田店 大上貴之さん

「初めてレースのメカニックとして参加させていただいて色んな経験をしました。これだけ大人数で1台のクルマを触る分、作業は早くすみますがコミュニケーションがちゃんと取れていないとミスにつながる。そこはしっかり声を出し、確認し合うように心がけていました。あとは、現場に来て色々な人から『慌てるな』と言われました。どうしても慣れないことでしたし、ミスをしたら大変なことになると分かっていつつも早くやらないといけないので、ピット作業以外でも焦りが出ました。レースの現場を経験したことで、普段の店舗でも慌てず作業をすることは重要だなと実感できた」